第2部 まとめ






結果

【日本の食糧消費・農業生産・農産物輸入の変化】
 1960年代以降の食糧消費・農業生産および1950年代以降の農産物輸入を窒素に換算し,その変化を5年おきに品目別に通観した.その結果,食糧消費では,穀類やイモ・マメ類など植物系の食品については一定で,その増加分のすべてが動物系の食品,とくに畜産物であることが分かった.農業生産では,戦後一貫して,植物系の農産物が減少傾向に,動物系の農産物(畜産物)が増加傾向にあることが分かった.農産物輸入では,輸入量増加のほとんどが飼料用作物によるものであること,輸入量の増加は1970年代前半までの高度経済成長時代に特に顕著であるが,飼料用作物の輸入は1990年代に入っても増加を続けていることが分かった.

【世界の農業生産・農産物貿易の変化】
 1950年以降の世界農業生産および1952年以降の農産物貿易を窒素に換算し,その変化を年度ごとに品目別に通観した.その結果,農業生産の総量では年度ごとの変動はあるものの一貫して増加傾向にあり,1990年代に入っても,その伸びは鈍くなっているものの生産の増加は続いていることが分かった.品目ごとの生産量についてみると,加工用農産物であるダイズ・トウモロコシ・オオムギ・サトウキビの4品目が,主食用作物であるコムギ・コメに比べて増加率が高いことが分かった.農産物貿易の総量では,1980年代までは農業生産を上回る割合で増加しているが,1980年以降は急激に成長がゆるみ,農業生産よりも低い伸び率となっている.品目ごとの貿易量変化をみると,貿易量増加のほとんどがトウモロコシ・ダイズ・ダイズかすの3品目,すなわち飼料用作物によって占められていることが分かった.


考察

【日本の食糧消費・農業生産・農産物輸入の変化】
 日本における農産物輸入を窒素に換算すると,その半分は飼料用作物が占める.また,農業生産においては,畜産品のみが一貫して増加傾向にあり,その他の農産物は長期的な減少傾向にある.という結果は,日本の経済成長にともなって国民の食糧消費構造が変化して畜産物の消費量が増加したこと,および,日本政府が畜産を高付加価値生産部門として奨励したことによると考えられる.

【世界の農業生産・農産物貿易の変化】
 世界の農業および農産物貿易を見ても,飼料用穀物は他品目よりも急速に増加している.食糧消費構造の変化と畜産業の急速な成長は日本のみに限られるのではなく,世界全体の一般的な特徴であることが推測される.
 今後アジアを中心とした経済成長の著しい発展途上国においても,穀物から畜産物へという食糧消費構造の変化と,それにともなう飼料用作物需要の急速な増加が起こると予想される.一方,EC・アメリカ合衆国といった先進農業国では輸出用作物の大半を生産してきたが,環境問題の深刻化と財政の悪化が原因となって農業政策を変更し,生産性重視の集約的な農業から,より生産性の低い環境保全的な農業へとシフトを行いつつある.以上の理由から世界の食糧需給は今後長期的に逼迫すると予想される.さらに,発展途上農業国における飢餓輸出を考慮すると,飢餓を含めた南北問題の解決と世界の安全保障のためには,世界各国が食糧の自給に努めることが効果的であると推察される.