The sciences do not try to explain, they hardly even try to interpret, they mainly make models. By a model is meant a mathematical construct which, with the addition of certain verbal interpretations, describes observed phenomena. The justification of such a mathematical construct is solely and precisely that it is expected to work.
- J.von Neumann「どうしていいかわからない。それは、あたりまえだが自分のせいである。やるべきこと、知るべきことが、解剖学というできあがった形で自分の外側に存在している。そう思っていたのがいけない。どこを探しても、『解剖学』などという『実体』が、現実にころがっているわけではない」
- 養老孟司
太陽系は約46億年前、宇宙空間を漂う主に水素から成るガスが凝縮して出来たと考えられています。太陽系では太陽に近い内側に、地球によく似て主に岩石で出来ている地球型の惑星があり、外側には水素やヘリウムが主な木星型惑星があります。これらの惑星は、隕石のような微惑星が集積して形成されたと考えられていますが、その際に放出される重力エネルギーによって高温になり、地球型の惑星では外側が融けてしまうほど高温であったと考えられています。この高温の惑星が、宇宙空間に熱を放出して徐々に温度が下がってくるわけですが、その間の熱エネルギーの流れによって、惑星の内部構造や表層での活動などが大きく変化してきたと考えられています。このような惑星や衛星等の形成過程、進化、現在や未来の活動などを研究する学問分野を地球惑星科学と呼んでいます。
私は、惑星が形成して以来どのように進化してきたかに興味を持っていまして、それを支配している物理過程に関して研究を進めてきました。惑星は、先に述べた形成時の熱エネルギーと惑星内部に含まれているウランなどの放射性元素の核分裂によって発生する熱エネルギーとを原動力に、現在地球で見られる様な火山活動や、巨大地震の原因となるプレー ト運動などの活動を続けてきました。つまり惑星の活動は、基本的には内部の熱エネルギーが低温の宇宙空間へと流出する際に見せる、散逸構造のあらわれであると考えることが出来ます。つまり、自動車が熱い排気ガスを比較的冷たい回りの空気中に捨てて、車を走らせるのと同じことです。地球は46億年走り続け、これからも走り続けるでしょう。どの程度の燃費でどの様な走り方をするかは、熱を放出する排気の効率にかかっています。惑星での様々な活動は、この惑星内部の熱輸送のプロセスがコントロールしているわけです。この熱輸送の主なプロセスは、 惑星内部の熱対流運動であると考えられます。この惑星内部の対流運動のダイナミクスを解明する(解った気になる)ことは、惑星の進化、現在の状態や活動、未来の姿を理解することにつながる重要な課題であるわけです。
私は簡単な解析モデルやパソコンで出来る数値実験等を用いて、惑星内部の対流やそれが引き起こす地震や火山等の地質現象のメカニズムについて調べています。惑星の半径は数千kmもあり、その深部は大変な高温・高圧で、そこでの物理的、化学的状態や惑星を形成している物質がどの様な性質を持つかは未だに良く解っていません。モデルではそれらのデータをパラメタ−として入力する必要がありますが、その際惑星を構成すると思われる物質の高温高圧下での性質を調べる実験や、惑星内部の物理的、化学的状態を調べる観測や分析を行う研究者との連係が必要となります。純粋に対流系の様々なパラメータ範囲での挙動の変化を考えるのも物理的には面白い問題なのですが、地球惑星科学は、物理的、化学的手法等を用いて惑星で生じる現象を解明する学問ですから、シミュレーションで得られた挙動が実際に惑星で重要な役割をしてるかを査定する必要があります。そのために、観測される現象を計算結果がどの程度記述可能かを調べます(もっともある現象を説明するために計算するのですが)。もし観測される現象の多くを記述することができれば、とても幸せになれますし、そこから逆に惑星内部の状態に関して予測することも出来たり、確認のために何を調べるべきかを提案することが出来ます。この様に、他の研究分野に攻め込み攻められることで、地球惑星科学は発展していくわけです。
先にも述べましたが、惑星はその形成から常に進化を続けています。しかし、我々が観測できるのは、現在に近い時間の惑星の姿です。それは常にうつろい行く惑星の一場面でしかありません。それは、惑星形成から現在までの進化の結果であるわけです。科学技術の進歩につれて惑星内部についての情報の精度が上がりつつあり、それらを解釈するにはやはり定常的ではなく時間変化を考慮したイメージが必要です。物理的な手段では過去のことは解りません。しかし、地表付近には過去の記録が地層として残っています。それを読み解くのが地質学なのですが、今後はそのデータを物理的、化学的な惑星像の中にどのように取り込んでいくかが重要な課題になると考えています。
こんなことを考えてきました(とりあえず羅列でごめんなさい)
地球の活動は熱エネルギーによって駆動されており,そのエネルギー流を知ることで地球の活動を調べます.日本の様な沈み込み帯はマントル対流の下降流域であり地震やマグマ等の地質活動が活発で,どうしても興味を引かれてしまいます.結局,そこが臨床の場となりました.そこで見られる様々な活動をエネルギー流という視点から見てみるとどうなるか?
熱流量や放射性発熱量が解ると地下の温度分布を推定することが出来ます.地震やマグマ等の活動が活発な沈み込み帯では,それに対応した温度の急変を見ることが出来ます.地球を構成する物質の物性は温度に大きく依存しているので,温度が地質活動のインデックスとなっているのが解ります.
地殻の温度はマントル対流によるエネルギー輸送に支配されます.沈み込み帯は対流の下降流域で冷たい筈なのですが,何故か多量のマグマが発生しています.沈み込み帯でマグマが発生できるほどの高温が保たれているのは,温度に敏感な物性を持つマントル物質がプレートの沈み込みに駆動され対流することにより,マントルのより深部から熱が輸送されるためであることが解りました.
日本の様な沈み込み帯では火山帯の海溝側には火山は存在しません.火山帯の海溝側の端を火山フロントと呼びます.それがなぜ出来るのか未だ良く解っていません.マグマはマントルで発生し地表まで上昇しますが,上昇するには割れ目を作ってそこを通るのが効率的です.割れ目の出来方はそこでの応力場に依存しますが,沈み込み帯下マントルでの応力場を推定すると,割れ目の出来方が火山フロントを形成している可能性が示されました.
沈み込み帯は沈み込むプレート内地下数百キロで地震が起こる場所なのですが,なぜその様な深い場所で地震が起こるのか良く解っていません.一つの説として沈み込むプレート内での相転移が原因であることが指摘されています.プレート内の温度と震源分布との関係を調べ,相転移が深発地震の原因である可能性が高いことを示しました.
プレート間スラスト断層の摩擦力は巨大地震やプレート運動の原動力を考える上で重要です.プレート運動によりそこで摩擦熱が発生しますが,その熱量を推定することで摩擦力が大変低いことが解りました.水が潤滑剤になっているのでしょうか.水と地震活動との関係は今ホットな話題です.
西南日本では日本海拡大時にマグネシウム成分を多く含んだ特異なマグマが発生しました.香川県ではカンカン石と呼ばれる,石器にも使われた溶岩です.日本海が出来る時ちょうど出来立てで暖かい四国沖の海底が西南日本の下に沈み込み始めました.その暖かいプレートがマントル内で融けて特異なマグマが出来た可能性を示しました.
デジタルカメラ等に用いられているCCDやCMOSセンサーは近赤外にも感度があり,それを利用すれば温度計として用いることが出来ます.通常は可視光のみ通すフィルターがついていますが,それを除いて火山の高温域の温度を測定しました.
高いお金をつぎ込んで取ったデータが放置されていたので日の目を見せてあげました(義務ですから).火山で発生する地震の分布から温度分布が推定できます.そこからマグマ溜まりの位置と大きさを推定しました.1つのマグマ溜まりから主な噴火口が3つ出来ています.また地下での地熱流体の移動経路も推定できました.地熱流体が供給されるごとに群発地震が発生しています.
西南日本では深いところで周波数の低い波を発生する変な地震が常に起こっているのが発見されました.そんなものが見つかるといろいろと妄想したくなるのが人情.沈み込むプレートから放出された水の行くえを推定すると,その変な地震の震源域に集中することが解りました.それがその変な地震の原因であるというモデルを示しました.
圧力溶解が,プレート間のスラスト地震の発生域をコントロールするという新しいモデルを提案した
海洋プレートが地球内部に沈んでいく沈み込み帯では,海洋プレート上に堆積した堆積物が陸側のプレートに付加し,付加体が形成されます.その付加体内では,堆積物に含まれる水が絞り出され,常に水が流動していると考えられます.その様に水が豊富に存在する条件下では,岩石は比較的低温でも容易に変形します.その変形を推定することで,沈み込み帯でのプレート間スラスト地震の発生場所を予測するモデルを提示しました.
地震やマグマ等の地質現象を,"熱"を軸として他の様々なアプローチを組み合わせたモデルにより記述してきました.基本的にハイブリッド的アプローチであり,対象とする現象も様々です(研究対象は地球です).そのような研究を理解できる人が多くない(私の周りではほぼ絶滅した)のは残念なことです. そろそろ臨床の場を変えていこうと考えています.