『青淵』2002年10月号 ヲ東西南北ヲ

 

ハワイの火山を見る

    京都大学総合人間学部教授 鎌田浩毅(理学博士)

 

ハワイは火山島である

 太平洋の真ん中に浮かぶハワイは、海底の火山活動によって誕生した火山島である。私は、火山の地質学を専門にしているので、よくハワイの調査に訪れる。ハワイはたくさんの島からなり、ハワイ諸島を作っている。八つある主な島は、その姿も活動した年代も違っている。五〇〇万年ほど前、一番西のカウアイ島が最初に誕生した。ずいぶん大昔の話である。私のような地質学者は、すぐに百万年などと言い出すので、聴いていた人は目を白黒することがある。五〇〇万年前というのは、人類の祖先が誕生した頃にあたる。

 ともかく、カウアイ島から東の方向に、古い順番にオアフ、モロカイ、ラナイ、マウイ、ハワイと島が続いている。ハワイの島々は、ベルトコンベアーに乗せられたように、西から東に新しい火山島ができているのである。いま制作中の火山島が、最後に書いたハワイ島である。

 日本人観光客がよく遊びに行くのは、オアフ島だ。国際空港のあるホノルルが、州都である。オアフ島も火山島なので、ワイキキの浜辺の近くには、たくさんの火口がある。

 次によく行くマウイ島には、島の半分以上の面積を占めるハレアカラ火山がある。ここもリゾートとして有名だが、歴史時代の噴火記録が残っている島でもある。

 最も東にあるハワイ島では、現在も活発な火山活動が見られる。ここはハワイ諸島最大の島で、ビッグ・アイランドとも呼ばれている。ハワイ島の面積は、他のハワイ諸島を全部合わせても足らないほどの広さである。

 ハワイ島には五つの火山があり、その一番南には、いまでも溶岩流を流し続けているキラウエア火山がある。現在ここは、ハワイ火山国立公園となっている。

 

ハワイ火山国立公園

 キラウエア火山は、過去四〇年間に三〇回以上も噴火している活火山である。今でも溶岩が海にまで流れ下っており、日本からわざわざ見に訪れる人も多い。私自身、溶岩の研究試料と写真をとりに、何回も行っている。ここには最近の数百年に流れ出した溶岩が、びっしりと地面をおおっている。ハワイ火山国立公園は、生きた火山の博物館なのである。

 国立公園内の道路には、いたるところに駐車場が用意されており、案内板も完備している。トイレや撮影ポイントの表示だけでなく、西暦何年に流れ出した溶岩かが、看板に書かれている。ただ区域を指定しただけの日本の国立公園とは、大違いである。

 つい数日前に出たという新しい溶岩は、黒光りしている(写真1)。これに対して、十年前に流れた溶岩の上には、ところどころに草が生え始めている。もっと古い溶岩の上には木が生えている。車で走りながら見ていると、素人でも溶岩の流れた年代の違いを、知ることができる。

 国立公園の中には、ホテルやキャンプ場やビジターセンターがある。いずれも国が管理している。ホテルはボルケーノ・ハウスといい、一八四六年創業の荘厳な歴史的建造物である。中は落ち着いた雰囲気で、観光客にも人気がある。寝泊まりできる車で、公園内にキャンプすることも可能である。キャンプ用品のレンタルもあり、初めてきた人も困らないように、実によく整備されている。

 国立公園内では、企業の営業活動が禁止されている。広告の看板も流行歌をがなりたてるスピーカーもなく、静かな美しい自然が守られている。そこに身をおいていると、ハワイの女神ペレに抱かれたような心地よさに包まれる。

 ビジターセンターには、キラウエア火山の地形図や地質図が売られている。噴火の記録映画もしばしば上映されている。またレンジャーと呼ばれる制服を着た人たちが、毎日数回、噴火の解説をしてくれる。

 レンジャーは国立公園の職員で、溶岩流の先端に立って説明をしたり、ケガをしないよう注意を与えてくれる。彼らはとても親切で、キラウエア火山の地質、植物、遺跡など、何でも分かりやすく質問に答えてくれる。

 

ハワイ火山観測所とジャガー博物館

 キラウエア火山の火口の近くには、ハワイ火山観測所がある(写真2)。ここではキラウエア火山の噴火予知と、それに関する基礎研究が行われている。米国地質調査所に所属する国立の研究所だ。ハワイ火山観測所は、ハワイ州にある全ての活火山の火山防災上のアドバイスも、おこなっている。

 キラウエア火山では、噴火の起きているすぐ近くまで近寄ることができる。よって、ハワイ火山観測所の科学者たちは、詳しい火山活動の観察をするという、またとない機会に恵まれている。観測所には、キラウエア火山のいたるところに設置された地震計や傾斜計のデータが集められている。その結果、噴火の仕組みについて、多くのことが分かってきた。

 ハワイ火山観測所では、毎週月曜日の朝にミーティングを行っている。ここでは研究者と事務職員が全て集まり、キラウエア火山の噴火の現在の状況と、その週の観測項目などの確認をしている。このミーティングは単なる事務連絡だけではなく、いま起きている火山活動の科学的解釈も議論される。これはオープンなので、海外からやってくる研究者も傍聴できる。非常に勉強になる時間である。

 キラウエア火山は、火山研究のメッカでもある。火山噴出物の試料を求めて、世界中から研究者がやってくる。私もハワイ島へ行ったときには、必ずハワイ火山観測所に寄り、友人の火山学者から現在のキラウエア火山の噴火状況を聞くことにしている。

 実は、ハワイ火山国立公園の中では、石も草も一切採ってはならない。研究用に採取するときには、許可が必要だ。先年、私は、大学院生を連れて溶岩試料の採取をしていたとき、ピストルを携行しているレンジャーに呼び止められたことがある。レンジャーは、国立公園の中では警察官と同じ権限を持っている。溶岩の試料を採取していたら、どこからともなく現れて、尋問してきたのである。

 幸い、レンジャー氏は、私たちの共同研究者である火山観測所の研究者を知っていたので、無罪放免となった。彼は親切にも「もっと人目につかないところで採りなさい」と助言してくれた。

 ハワイ火山観測所のとなりには、ジャガー博物館がある。ジャガーとは、戦前、キラウエア火山の噴火の研究を始めた人の名前だ。世界で初めて具体的な噴火予知の方法を考案し、成功させた人でもある。ジャガーはもともと、多くの優秀な科学者を輩出してきたマサチューセッツ工科大学の教授だった。かつて彼は、キラウエア火山の噴火を見に来て、魅せられてしまった人である。教授をやめて観測所を建て、噴火の観測を始めたのである。

 ジャガー博物館では、ハワイ火山の噴火の写真、噴火のビデオ、地質図、火山の解説本などが売られている。スタッフは、今どこで溶岩流を見ることができるかなど、親切に教えてくれる。

 ここでは日本語の地形図も用意されている。さらに、噴火のビデオには、英語版だけでなく日本語版も用意されている。数年前、私はハワイ火山観測所のスタッフから、ビデオの和訳を依頼された。日本語のナレーションは、ハワイ在住の三世が、実に流暢な日本語で吹き込んでくれた。

 ジャガー博物館といえば、先日私は、アメリカの自然系の博物館がたいへん優れていることを、火山の入門書に書いた(『火山はすごい』PHP 新書)。これを読んで、夏休みにワシントンまで飛んでいった知人がいる。皆さんには是非、アメリカの博物館を訪れてほしいと思う。圧倒的な展示品を見ると、これが本当の意味での国力なのだと、納得されるはずである。ハワイ以外にも、ニューヨークとワシントンの自然史博物館が優れているので、特にお奨めしたい。またいつか、アメリカの博物館の素晴らしさについても、じっくりと語ってみたいと思う。

 

 

写真のキャプション

写真1:キラウエア火山で流れている溶岩流

写真2:国立ハワイ火山観測所

 

 

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