マイクロフロー系におけるオルトリン酸の
連続観測に向けて

笹原 智生
(2期生)


要旨
 砂漠にたとえられる熱帯外洋域に比べ、サンゴ礁域は一次生産がかなり大きい。この一次生産速度は、水温・塩分・光などの条件が適当である場合、外界に要求する栄養物質の濃度に規定される。サンゴ礁での一次生産を規定する栄養塩については、礁内の水柱における無機態窒素とリンの濃度がほかの貧栄養海域同様に低いので、この両者がサンゴ礁生態系において一次生産を規定している可能性が指摘されている。

 化学成分の連続観測研究開発は次第に進められつつあるが、方法論的困難さゆえに、低濃度(10nmol/1以下)のリンに関しては、高感度で小型の連続測定装置の開発にはいたっていない。

 様々な形態を持つリンなかで直接測定可能なのはオルトリン酸イオンだけである。オルトリン酸イオンの分析法としては、モリブデンブルー法が一般的である。これは、試料をろ過した後、モリブデン酸を加え、試料中のオルトリン酸イオンとヘテロポリ酸を生成させ(モリブデンイエロー)、それを還元したときのブルーの発色(モリブデンブルー)を用いて比色定量するものである。このような比色法によるオルトリン酸イオンの検出限界は長光路長セルを用いた吸光法で、約10nmol/1(約0.3ppb-P)である。

 本実験では、蛍光法を用いたマイクロフロー系をもちいることで、10nmol/1以下の濃度での測定ができるか検討した。

 その結果、Rd-bを用いた蛍光法では10nmol/1以下の測定の条件にすると珪酸の妨害がかなり大きく環境水中での測定は困難である事、また、モリブデンブルー法での最適条件を(珪酸の妨害は検討してある条件)Rd-bをもちいて蛍光法に応用したが10nmol/1以下の測定はできない事が分かった。

 そこで、モリブデンブルー法にXAD樹脂を用いたカラム濃縮を適用し10nmol/1以下の測定が可能か検討しようとしたが、今回は実験系の製作にとどまった。

本文
  1. はじめに
  2. (1)リンの測定法概説
    (2)自動化された分析計による分析について
  3. (1)フロー系での蛍光法でのリンの測定について
    (2)XAD樹脂を使ったカラム濃縮について
  1. 今後の展望
  2. 謝辞
  3. 図版