由布-鶴見火山の池代火砕流に伴う
火砕物の残留磁化

齋藤 武士
(3期生)


要旨
 九州北東部、豊肥火山地域の中で最も新しい活動が記録されている火山の一つに由布-鶴見火山群がある。由布火山では約2000年前に池代溶岩ドームの成長と崩壊によるメラピ型火砕流が発生し、北麓に池代火砕流堆積物を堆積させた(小林、1984;星住・他、1988)。今回地質調査により、池代火砕流堆積物の分布域東端に新たに4枚の火砕流状の堆積物(以下“東部火砕物”と呼ぶ)が扇型に分布することが分かった。東部火砕物は池代火砕流堆積物のつくる平坦面の上位に位置し、独立した1枚の面を形成している。両堆積物間には腐植土壌が挟まれ、堆積時間間隙が認められる。また由布火山山頂北側の池代溶岩ドームの東端から、東部火砕物の扇型の分布の要にかけて北へ延びる谷地形が存在し、東部火砕物はこの谷を通って流下したと考えられる。東部火砕物の堆積様式を明らかにすることは、池代火砕流の噴火史を考えるうえで重要な問題である。そこで我々は池代火砕流堆積物と東部火砕物の2露頭から岩石試料を採取して段階熱消磁実験を行い、残留磁化を測定した。

 その結果、東部火砕物の残留磁化方向は不揃いであったのに対し、池代火砕流堆積物の低温成分は揃った(偏角−0.8°、伏角32.1°、α95=10.1)。従って東部火砕物は高温の火砕流堆積物ではなく低温の泥流堆積物と考えられる。また岩石を肉眼で観察したところ、東部火砕物の試料に関して、岩石が酸化されるにつれて残留磁化成分数が増すことが分かった。これらの関係及び地質調査結果から、2000年前の池代火砕流噴出に伴う活動は以下の様に推定される。主活動期はマグマの噴出率が高く、溶岩ドームは内成・外成の両成長をして頻繁に火砕流を発生させ、池代火砕流堆積物を堆積させた。その後噴出率が下がり内成的成長のみを行った。活動終了後時間をおいた後、最後の溶岩ドームの東端部か或いは斜面上に堆積した火砕流堆積物の一部が北へ延びる谷を通って泥流として流下し、東部火砕物を堆積させた。これは雲仙普賢岳で1991年に始まった溶岩ドームの成長現象(中田、1996)と類似し、噴出率の高い時には内成・外成の両成長を、低い時には内成的成長をしたことを示唆する。

本文
  1. はじめに
  2. 段階熱消磁実験に基づく火砕物の決定
  3. 地質概説
    (1)由布火山の地質
    (2)池代火砕流の地質
    (3)東部火砕物の地質
  4. 測定試料採取および古地磁気測定
  5. 測定結果
    (1)古地磁気測定結果
    (2)岩石の肉眼観察
  1. 考察
    (1)古地磁気学的考察
    (2)酸化度と成分数と溶岩ドーム
    (3)推定される噴火史
  2. 結論
    (1)東部火砕物
    (2)2000年前の活動
  3. 謝辞
  4. 文献
  5. APPENDIX