HIMU玄武岩の化学的特徴
-斑晶輝石を用いた解析-

工藤 浩司
(1期生)


要旨
 地球上にはLIPs(Large Igneous Provinces)と呼ばれる地質学的にみて短時間に形成された大規模な火山岩地域がある。これらのLIPsは下部マントルからの巨大なマントル上昇流によって作られたと考えられている(Coffin and Eldholm, 1994)。この巨大なマントル上昇流はスーパープルームと呼ばれており、白亜紀中期のスーパープルーム活動期では、地磁気の反転停止、海洋地殻の生産量の増加、それによる海水面の上昇、気温の上昇、化石燃料の埋積の増加があったとされる(Larson, 1991)。

 南太平洋ポリネシアと大西洋セントヘレナにはHIMU玄武岩と呼ばれる鉛同位体比の高い岩石がある。このHIMU玄武岩はNb/Zr比が高い化学的特徴を持つ。このNb/Zr比を高くするメカニズムとして、下部マントル条件下でのシリケイトペロヴスカイトによる分別が考えられている(Kato et al., 1988a; 1988b)。そして、地震波を用いた全マントルトモグラフィーにおいて、この2つの地域の直下にのみ地震波の低速度域が下部マントルから存在している(Fukao et al., 1994)。これらのことからHIMU玄武岩の貯蔵庫が下部マントルにあり、HIMU玄武岩はスーパープルームの痕跡ではないかと考えられる。

 このスーパープルームによって作られたと考えられるLIPsなどの海台は、プレートテクトニクスの作用で現在の地球上には2億年以上古いものは存在しない。だが、それらの海台の中には、大陸の縁に付加体となって残っている可能性があるものもある。このスーパープルームの痕跡である付加体を探せば、2億年以上前のスーパープルームの活動が明らかになるであろう。だが、付加する際には変質・変成作用を受ける。スーパープルームの痕跡を付加体から見つけるには、この作用においても変化しないパラメータである必要がある。

 この研究では変質・変成作用に強い斑晶輝石を用いて、付加体にも適応可能なHIMU玄武岩の化学的特徴を見つけだした。斑晶輝石中にもHIMU玄武岩の化学的特徴であるNb/Zr比が高い化学的特徴が保持されていることが明らかになった。この比は変質・変成による変化が小さいと考えられるので、この特徴を付加体に適応することによって、過去のスーパープルームの活動が明らかになるであろう。

本文
  1. 背景
    (1)スーパープルーム
    (2)HIMU玄武岩
  2. 研究の目的
  3. 試料
  4. 測定
  1. データの扱い
  2. 測定結果
  3. 結論
  4. 謝辞
  5. 引用・参考文献
  6. 測定データ